10/14 ニューヨーク到着
実はボストンで一泊するつもりでいたのだが、夕方5時のバスでニューヨークへ向かい夜9時に着いた。危険な夜のニューヨークを敬遠して、そのままワシントン行きのバスで車中泊し、翌朝再びニューヨークへ戻るつもりでスケジュールを確認した。しかし、ニューヨークの巨大なバスターミナルは人通りが多かった事から建物の外に出て見ると、すぐ近くに安ホテルが見つかり泊まる事にした。この時はニューヨークのどこに着いたのか分からなかった。なんとなくマンハッタンではなく、近くのブルックリンかなと思っていた。
チェックインを済ませ宿に荷物を置き、一旦外に出てネオンの輝く雑踏の中を歩いてみた。あまりヤバそうな雰囲気でもなかったので少し安心した。混んでいる小さな店のカウンターでハンバーガーを食べてからホテルに戻った。
部屋は3階だ。寝る前にホテルの非常階段の位置などを調べ、そして部屋の窓の外側を確認して、外から簡単に侵入されないかどうか点検した。仕上げにドアのノブと窓のロックを紐で繋ぎ、どっちが開いても空のアルミ製の水筒が床に落ちるようにした。簡易アラームを作ってからようやく安心してベッドに入った。気休めかも知れないが、無いよりはマシだと思った。
10/15(水) 晴れ マンハッタン
朝、外を歩くと予想に反してマンハッタンに居ることが分かった。昨夜到着した所は、タイムズスクエアにある各社のバスが集まる大きなバスターミナルだった。とても大きな建物で中には本屋やカフェテリア、床屋も入っていた。リュックをロッカーに入れ、朝食を済ませるとさっそくエンパイアステートビルへ行って102階までエレベーターで昇った。エンパイアは古い建物らしいが、流石に摩天楼と言われる程高くて見晴らしが素晴らしかった。建ち並ぶビル群も下の方になるので、ものすごく遠くまで見渡せた。ここからはマンハッタン島の形状が良くわかった。
バスに乗ってマンハッタン島の先端まで行こうと思ったが、ブロードウェイをずっと歩いて行く事にした。感心したのはニューヨークのど真ん中の小さな公園にもリスがいて、見ていて心が温まる。途中、ジーンズや米軍の放出品を扱っている店に入ってみた。ジーンズを見ていると店員が近寄ってきて、「パンツを穿いているのなら、奥の試着室で試着していいよ。」だって。という事はパンツを穿いていない奴らが少なからず居るということか。表情にでるくらい驚いた。この店で見つけたミリタリーグリーンの小さなザックを買った。手頃なサイズでカメラや身の回りの小物を入れるのにちょうど良い。またベルトで肩から掛けることも、背負うこともできて気に入った。
マンハッタンの先端は広い公園になっており、桟橋からフェリーが自由の女神像のある島まで出ていた。女神像は冠の所にある展望台へ上れるようになっていた。像を見上げた時は、エレベーターでかなり高い所まで行けるのかと思ったが、6階くらいですぐに下ろされた。像の台座の部分だけ上がったようだった。そこから多くの観光客が一列に並んで、延々とかなり急な螺旋階段を冠のところまで登った。冠の窓から見えた外の景色は、期待したほど眺めが良いわけではなかった。話の種になったということだけだ。
10/16 地下鉄
朝、セントラルパークにあるメトロポリタン美術館へ向かったが、かなり遠いことに気がついた。活気のあるニューヨーク市内を歩くのは面白かったが、バスの出発時間も気になったので、悪名高き地下鉄に乗る事にした。しかしどうやって行くのか分からず、壁の路線図を見ていたら若いサラリーマン風の男性が丁寧に教えてくれた。
電車に乗ると、念のために隣に居たおバアさんにも聞いた。おバアさんは早口の英語でまくしたてながらも、乗り換えのホームまでわざわざ連れて行ってくれた。そこでお礼に日本の小さなコケシのキーホルダーをあげようとしたが、受け取らずに行ってしまった。言葉は通じないがいい人達に会えてよかった。地下鉄車両の内外は、スプレーの落書きだらけで犯罪都市のイメージが強く感じられた。
ワシントンには夕方5時過ぎに着いた。ターミナルから外にでてみると予想を見事に裏切られた。首都だから綺麗に整備されていると思っていたが、街には白人よりも黒人のほうが多く、例によってゴミが散らかって汚らしい。なぜかアメリカの町は、歩いている黒人の数と散らかったゴミの数が比例している様に見える。
夕方6時半頃、公園の道路脇の歩道を歩いていると、ベンチに座っていた数人の黒人のおっさん達に呼び止められた。何を言っているのかわからないままに話を聞くと、そのうちに空手の真似をしだした。俺はブラックベルトで5年やっていると答えた後、横に立っていた木に後ろ蹴りしたところ大喝采を浴びた。彼らが茶色の紙袋に入れて飲んでいた安酒を振舞われたので一口飲んでホテルへ戻った。
10/17 (木) 晴れ ホワイトハウス
朝、ホワイトハウスの前にある広い芝生の公園でベンチに座り、スーパーで買ったパンにチーズとハムをはさんだ。オレンジジュースを飲みながら朝食を取っていた。そこから観光客のような人たちが大勢ホワイトハウスから出てくるのが見えた。なんだろうと思い、ホワイトハウスの周りを歩いて調べることにした。
数人の観光客が裏のほうへ行くので彼らの後について行った。建物の裏手には大勢の人が一列に並んでいた。近づくと整理券を配っていた。僕も並んで手を出すともらうことができた。そのまま並んで一緒に移動していくと、ホワイトハウスの中へ入れてもらえた。建物の中はとても美しく、過去の大統領の絵とか、ブルールームとかレッドルームと呼ばれる部屋の間を通りながら見学させてもらえた。まさか外国人の僕が、簡単に入れるなんて思ってもみなかった。日本では首相官邸でもありえないことだと思った。
ホワイトハウスから出ると、裏手はかなり広い公園になっていた。真横に議事堂、ワシントン記念堂、リンカーン記念堂が並び、その先に有名なポトマック河畔の桜並木とジェファーソン記念堂があった。この辺りはとても美しく整備されており、イメージしていたワシントンがそこにあった。河畔では多くの市民がジョッギングをしていた。彼らを見ていたら、僕も日本に帰ったら空手と野球を一生懸命やりたいと思った。
10/18 雨のち曇り マイアミビーチ
ワシントンから夜行バスで朝早くマイアミビーチに着いた。雨が上がったばかりであったがすぐモーテルに入った。この宿は一泊9ドルでとても安く、今までの中で最高の部屋だった。周辺にはモーテルやホテルが多く建ち並んでいるが、シーズンオフのためほとんど客がいなかった。
海岸通りは椰子並木で感じの良いところだったが、保養地ということから年寄りが多い。残念ながら空もどんよりと曇っていてなんとなく寂れた感じがした。想っていたより肌寒く、砂浜も海も大して綺麗ではなかった。それでも海で泳いでいる人がいたのには驚きだ。
10/19 (日) 曇り マイアミ
相変わらずどんよりとした曇り空のため、朝早くマイアミへ移った。公園には椰子の木が多く、落ちていた大きな椰子の実をひとつ拾った。近くのベンチに座っていた黒人のおばあちゃんが皮の剥き方を教えてくれた。近くに居た白人の青年がナイフで厚い皮を剥ぎ取り、硬い実に穴を開けて中に入っていた水を飲ませてくれた。生ぬるくて美味しくは無いがまずくも無い、たとえようの無い不思議な味がした。この実を割って白い果肉も食べさせてもらった。これはチョコレートに入っているココナッツと同じ味がした。少し日にちをおいて、実ごと冷蔵庫で冷やして飲んだほうが美味しいらしい。もうひとつ拾ってくれたので、これは日本へお土産に持って帰ろうかなと一瞬本気で考えた。
10/20 (月) 快晴 タラハシ
今日の快晴がマイアミビーチであったら良かったのにと思った。ここはフロリダのタラハシ、州都だが割とこじんまりした町だ。昼に着き適当に街を歩いてみると、静かな緑に囲まれた住宅街に行き当たった。高級住宅街だ。ハイスクールらしき建物が見つかり、広いグランドに入って隅のベンチに腰掛けた。
体育の時間だったらしく、高校生たちが(中学生かな?)サッカーやアメリカンフットボールをしていた。でもあまり一生懸命にしておらず、楽しそうには見えなかった。彼らを遠望しながら自分の子供の頃を想った。「俺は楽しくやっていたけど・・・、一人で楽しんでいたのかな?」。
足元を見ると、グラウンドの砂が日本と違い粒子が大きい。手に取るとグラニュー糖のようにザラザラしていて面白かった。砂に混じっている小石も水晶のように澄んでいた。いつまで持っていることやらと思いながら、磨くと綺麗になりそうな小石を二つほど選んでポケットにしまった。
今晩のディナーは1.89ドルのステーキ・チップスを食べた。本当に自分が外国人であることを強く感じた。ステーキの焼き具合を問われた時、とっさに何と言ったらよいか言葉が出ず、ウエルダンと言いたいところをノットミディアム、モアーザンミディアムと答えてしまった。きっと後で、ウエートレスのおばちゃん達は可笑しがっていたと思う。それにしてもあのステーキ・チップスはうまかった。そして安かった。牛肉を一口大に切ったステーキと一緒にピーマンと玉ねぎを炒め。オーブンで焼いたジャガイモとパンが一切れついてきた。
それにしてもレストランによって価格の差がありすぎる。この日の朝食はターミナルのカフェテリアで食べた。ドーナッツ1個が25セント、ミルク小パック35セント、小さなハンバーグが1.2ドル、それにフルーツパイが50セント、これで2.4ドルも取られた。どこでも朝食はなぜかディナーと比べて高い。だけどアメリカのオレンジジュースは果汁が100%で安くてうまい。時々スーパーでオレンジジュースを買って水筒に入れ、バスで移動するときに飲んだ。