C. コロンビア漁船/機械修理専門家(5/6)

C. 海外漁業協力専門家稼業

日産10トン製氷機及び貯氷庫30トンの不具合発生

スリップウェイも完成し、ほぼ同じタイミングでプレートアイスの製氷機も完成した。日産5トンのプレートアイス製氷機が2台と、容量30トンの貯氷庫で構成されている。製氷機はH鋼製のフレームで組まれた構造物の上に乗っている。屋根までの高さは10mを超えるので、漁船と交信するVHFとSSB無線機のアンテナを立てるのに都合が良かった。貯氷庫は高床式になっており、奥からスクリュー式コンベアで氷を前方の運搬車へ直接落とせるように設計されていた。

製氷機は貯氷庫の真上に設置されており、氷は一台当たり8枚の結氷板に張り付くように製氷される。厚さが約10ミリ、約1㎡の大きなプレートアイスになると、タイマーで氷が結氷板から剥がされ、下にある回転クラッシャーに落ちて一片が5〜8cmくらいのプレートアイスが真下の貯氷庫に落ちる仕掛けになっていた。シーケンス回路で制御されて24時間自動で運転される。

全ての建設工事が終了し、資機材も全て正式に受領された。首都のボゴタから多くの関係者が出席し引き渡し式が華々しく行われた。数日後、ボゴタで産業振興庁長官の主催で関係者を集めたパーティーも開催された。全ての行事が終わり漁業公社に日常がもどってきた。

製氷機はフル稼働して貯氷庫に氷が天井近かくまで溜まったが、スクリュー式コンベアーが動き自動に氷の排出口が開いても、氷が落ちて来なくなった。スクリュー式コンベアーは貯氷庫の平らな床の上に細長く設置されている。高さが50cmもあり、庫内の氷の高さが低くなればスクリュー式コンベアーの中に氷が落ちなくなることになるが、おかしな設計だ。氷が天井近くまで溜まっているのに落ちてこない原因を探るために、扉を開けて排出口近くの氷を強引に外へかき出してみた。

スクリュー式コンベアーを覗くと中は空っぽで、コンベアに沿って空洞が出来ていた。よく見ると、氷の表面が溶けて氷同士が付着し、カマクラのようにドーム状になっていた。貯氷庫にはクーラーが付いておらず、氷の排出口から外気温がスクリュー式コンベアー本体に伝わってくる為に、庫内の温度が上昇して起きた現象であった。多分コストを削減するために、既製品の資材を組み合わせた設計が原因では無いかと思った。色々と対策を考えてみたが、コストを掛けずに氷を取り出すには誰かが一人庫内に入って、氷を長い棒でスクリュー式コンベアの上部に出来る空洞を壊すしか無かった。排出口の脇にあるボタンを押せば、自動で氷が落ちて来ると誰しも思っていたので呆れてしまった。

同時期に、貯氷庫の床にも問題が起きた。貯氷庫の壁も床も、断熱材の入った10cmくらいの厚さのパネルを組み合わせて製作されていた。床は数本のCチャンネル鋼材の上にパネルが敷かれていた。そしてパネルの上にU型をしたステンレス製のスクリュー式コンベアケースが置かれている。このケースの中に長さ4m近いスクリュー式コンベアが入っている。重いコンベアのU型ケースを支える足は前後に4本しか無く、直接パネル製の床に設置されている足の面積が5㎠程度と、とても小さかった。よってスクリュー式コンベアの重量と、上に乗っかる氷の重量は4本の足の設置面積に集中していた。この部分のパネルが窪んで、亀裂が入りそうな状態であった。

床のパネルを支えるCチャンネルは、隣接したパネル同士の合わせ面を支えていない箇所があり、その部分に重量がかかるスクリュー式コンベアの足が乗っていたため、パネルの合わせ面の接着剤が剥がれて陥没していき、徐々に広がってくる間隙から水が終日垂れるようになった。対応策として、スクリュー式コンベアの4本の足にかかる荷重を集中させないよう、大判で厚手の亜鉛メッキ鋼板の四隅を丸め、前後の足の下に敷いた。要するに荷重を点で支えず、面で支えるようにして応力の集中を除いた。

当然、陥没している床をジャッキアップし、パネルの合わせ面を支えるC型チャンネルを2本増設することで、床パネル同士の合わせ面の変形を抑えた。最後にパネルの合わせ面にシリコン系のコーキング材を充填することで解決できた。費用は作業を請け負った日系の会社が負担してくれたので助かった。しかし、修復作業をしてもらった機械屋に、設計ミスでは無いのかと言われてしまった。現場の専門家として、日本から供与された資機材を、胸を張ってこれが日本製だと、現地の関係者に言えない時はとても情けなくなった。

米国製浄水装置設置

製氷機稼働後2ヶ月ほどたったある日、製氷機の異常を知らせるアラームが鳴って自動運転が停止した。冷蔵庫屋の兄ちゃんが原因を見つけてきた。製氷機のサイドカバーを外して結氷板を除くと、クラッシャーの部分に大きな氷の塊がいくつか詰まっていた。塊を除いて再稼働すると、散水パイプの噴水口が完全に詰まって水が出ないところと、一部の噴水口の穴が詰まって明後日の方角に水を噴射していた。この噴射角度が原因で1箇所に氷の塊が出来たようだ。また噴射口の詰まりの原因は水垢だった。予想以上に早く水垢が結氷板の表面にビッシリ張り付いていた。

散水パイプと結氷板の水垢を掃除してもらい、再稼働させると問題なく散水し、適正な厚さと大きさのクラッシャーアイスが落ちてきた。これで安心していたところ、2週間ほどしてからまたアラームが鳴って緊急停止してしまった。冷蔵庫屋の兄ちゃんが再び点検すると、今度は製氷機の水タンクに給水するポンプが止まっていた。原因は今度も水垢であった。それもポンプ内部のインペラー(回転することで遠心力にて水を吐出し、インペラーの中心部が低圧になって、吸水口から吸水する円盤)とポンプボディーの隙間に水垢が完全に詰まって、モーターが停止した。メデジンの船外機輸入販売会社では、船外機以外にも多くの輸入品を取り扱っており、その中にエンジンポンプやモーターポンプもあった。ポンプに関してはかなりの知識と経験があったが、こんなトラブルは過去に経験した事は無かった。

製氷機の原水は村の水道水を使用している。水垢は水に含まれるミネラル分が多いからで、途轍もなく硬水と言うことだ。よくよく聞いてみると、どうやら村の水道は地下水が原水のようで、村の海岸の砂も白いことから、近隣の地盤は珊瑚礁だった可能性が高い。どうりでシャンプーで髪の毛を洗っても泡立ちが少ないわけである。

日本のコンサルタントに連絡を取ると、日産10トンの製氷機に使う水を軟水化できる浄水器は、とても高額で一千万円くらいする為、予算上付帯設備として設置できなかったという回答を受け取った。流石に高額すぎて手が出ない。何か他に対策が無いものかと考えていた時、偶然メデジンから農業機器を輸入販売している会社の営業マンが来た。

直接私が対応してみると、その会社は米国製の浄水器も取り扱っており、軟水化装置も組み込むことが出来るという説明を受けた。驚いたのは、水質検査キットも持参して来ており、すぐに調べてもらった。とてつもなく硬度の高い水であることが証明された。彼に製氷機の水垢問題と、出来れば海産物の処理水に殺菌された水を使用する必要性を説明した。

パンフレットをもらいながら、その場で仮に見積もりをしてもらうと5,000ドル以内で対応できると言われた。コンサルタントの言っていた一千万円と言う金額とあまりにも差があって、少し心配になった。営業マンを見送った後に、ボゴタの事業団事務所に連絡を取った。現状を説明すると、その金額ならばなんとか支援できると言うことで、本見積もりを待つことにした。

もらった英語のパンフレットを読むと、アメリカでは飲料水の水質に問題がある地方が多いことから、家庭用や小規模なレストラン用など、浄水器が一般的に利用されている事がわかった。既製品として量産されていることが価格の安い理由だった。日本では豊富で綺麗な水がどこでも手に入ることから、当時はこのような小型で安価な処理システムは見当たらなかった。水質検査の結果により、浄水器のモジュールを適切に選択して組み合わせることになる。

                 米国製浄水フィルター設置例

漁業公社に必要とする浄水器はいくつかのフィルターで構成される。原水は次に説明する各フィルターを通りながら浄化されていく。①先ず透明な容器に入ったカートリッジタイプのプレフィルターで、原水の大きめな砂やゴミなどを除く。②次に細かな砂泥などの異物を濾過するフィルターを通る。これはタイマーで自動的に逆洗浄される。③次にデュポンのイオン交換樹脂の入ったフィルターで、硬水から軟水にイオン交換される。これもタイマーで岩塩を使って逆洗浄される。④そして水の異臭や色素などを吸着するカーボンフィルター(活性炭)で浄化された水を、⑤最後にUVランプで除菌して安全な飲料水になる。メンテナンスは毎月補充する消耗品の岩塩と、年に一度程度UVランプの交換や各フィルターの充填材の点検と補充などで、あまり手が掛からなかった。

事前に協力事業団に相談をしていたので、業者から本見積もりを受領した後、早速購入する事ができた。例の営業マンが来て製氷機の足場の下に設置してもらった。早速この処理された清浄な水で製氷すると、とても綺麗に澄んだ無味無臭の氷ができるようになり、製氷板の水垢を定期的に除去する必要が無くなった。

また、処理水量に余裕があるため、海産物処理にも使用できるようになった。その半年後、ペルーの海産物にコレラが発生し、徐々にエクアドル、コロンビアの太平洋岸を北上してきた。カリブ海側でも感染者が出始めた頃、コロンビア国内では海産物が売れなくなっていたが、漁業公社の魚だけはあちこちの仲買業者から購入依頼が殺到した。それは浄水システムによって、安全で清浄な水で作られた氷を、ふんだんに魚の鮮度保持に使い、この水を海産物の処理にも使用していた事が評価されたお陰であった。

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