C. アルゼンチン海水魚養殖案件(2/7)

ホテル事情

今日は1月30日、日曜日の午後、いろいろと世話になった人たちに絵葉書を送る事にする。

拝啓:
今回は久々に日本でお正月を過ごすことができました。年末にアルゼンチンの漁業長官が覚書にサインをした事から、事務所に仕事始めの4日から呼び出されました。7日まで業務の説明やら送別会に追われ、挨拶もそこそこ9日には成田を出発しました。今度の仕事は海水魚養殖プロジェクトのコーディネーターです。二人の養殖専門家に同行します。任地のマルデルプラタ市は住むには良さそうな街で、2,3年、もしかしたら5年ほど当地に滞在するようになると思います。こちらにお越しになる機会がありましたらぜひご連絡ください。今後もなにとぞよろしくお願いします。 CCXXXX, MAR DEL PLATA, ARGENTINA
敬具

同じような文句の葉書を何枚か書いているうちに雨が降り出した。かなりの豪雨であったが、雨にしては窓にあたる音がうるさく感じたので外を見ると、真夏だというのに大粒の雹まじりの雨であった。ここは地の果てアルゼンチンというフレーズが不意に口をついてでた。やはり遠くに来たなという感じで、南極に近いということが肌に感じられた。

日中、気温が高い日でも風がかなり冷たく感じられる。今まで派遣されていたカリブ海の沿岸諸国と自然がまったく違うのだ。冬は特に厳しいらしい。なんとなく先が思いやられて不安になった。まあしかしこれも慣れの問題だろう。これを書いている間に腹が減ってきたので夕飯の支度をすることにする。

長期滞在契約をした今のホテルは4ッ星だがなんとなく古い。でもアパートホテル式なので、寝室と食堂兼居間が離れており小さなキッチンもついている。入室するときに臭いが充満するから部屋であまり調理はしないでくれ言われたが、無理な話である。結構あちこちで調理をしているらしくかなり臭う時がある。とはいえ変な目で見られるのも嫌だから臭いのしないような物を作ることを心がける。

ここのところ毎日スパゲッティばかりだ。簡単なので今日もスパゲッティにする。昨夜のあまったスパゲッティソースに玉ねぎ、レタス、トマトを刻んで炒めてから混ぜ、最後に茹でたスパゲッティを混ぜて食った。野菜を茹でた湯をよく切らなかったのでソースが薄まってしまいあまりうまくなかった。遠慮しながら調理をしているのでいまいち居心地が悪い。

ホテルといえばマルデルプラタに着いた日にあちこち当たったが、どこも満室でありシーズン料金で非常に高く、通常の3倍にもなっていた。観念してカウンターパートが予約を取ってくれた研究所に近いホテルに入ることにした。狭くてシャワーだけの部屋が、長期滞在したとしても一泊80ドルもした。あそこで家が見つかるまで数ヶ月も滞在したら気が滅入っただろうな。

今のホテルは中心街(セントロ)に見つけた。トルコ風呂やジャグシーがついているので、午後仕事から帰ってきてから利用できる。2日つづけてトルコ、いやここではフィンランド風呂、に入ったら日本から続いていた咳がようやく止まった。今のホテルに移ってから、O さんの部屋でサラダや、ハムとご飯で軽く夕食を食べた晩にアレルギー反応が出てしまった。

体に発疹が出て、胃の真後ろの背中が痛くなって1晩中調子が悪かった。どうもサラダに使ったツナ缶が原因じゃないかと思う。前回のドミニカのプロジェクトで一緒に派遣されていたA さんの食中毒を思い出した。翌日、無理をして仕事に行ったが、ほとんど何もできなかった。その晩、部屋で休んでいるとOD さんが心配してリンゴとジュースを持ってきてくれた。ちょうどその時リンゴを食べていたが嬉しかった。体調は1週間近く調子が悪かった。まだいまいち本調子ではない。

今日、30日の午後にMUSIMUNDO という店で偶然にOさん夫婦に会った。昨夜Oさんもマクドナルドの地中海サラダであたってしまい、部屋でもどしてしまったと言っていた。半日だけでなんとか調子が元に戻ってよかったと言っていた。 ここのマクドナルドもドミニカと同じように割高なので入っている客が少ない。当然高額商品の回転が悪く、鮮度が落ちるので要注意だ。

昨日の雨はとんでもない大雨だったらしい。普段もこんな雨なんだろなと、こっちは思っていたが、百年ぶりの大雨でセントロのあちこちで床上浸水したところがでたようだ。おまけに下水の本管が壊れて道路の一部が陥没し、流された乗用車が一台穴に落ちている写真が新聞に載っていた。外出しなくてよかった。

家探し1

アルゼンチンでは1月から2月の末までがバカシオーネスで皆休暇を取って旅行する。以前は一ヶ月丸々家族で観光地へ出かけていったのが、今では物価が高いのでたったの1週間しか行けなくなってしまったと彼らは嘆いている。

ブラジルが通貨の切り下げを行ったことから、アルゼンチン人が物価の安いブラジルの観光地にどっと繰り出しているというニュースをテレビでやっていた。今はアルゼンチンペソが高いので輸出産業が低迷し、小麦なども輸出が大変らしい。まあ時間の問題で外貨不足になり、ペソの切り下げをすることになるでしょう。やっぱりお金はドルで持っておこう。

マルデルプラタはアルゼンチンきっての観光地なのでこのシーズンは人口60万程の町が200万近くまで増えるという。この期間はホテルの料金や貸し家の料金もドンとあがる。前にも書いたが最初に泊まったホテルはなんとなく薄汚い安ホテルで部屋はベッドが一つだけ、そしてシャワーだけで浴槽もなくだんだん惨めになってくるようなところが1泊80ドルも取られた。

どこのホテルも満員であっちこっち聞いて歩き、ようやく今のホテルに長期契約で入ることができた。1日当たり90ドル、前より高いがアパート形式になっているので部屋が二つあり、小さなキッチンも付いていて非常にらくだ。因みに通常の料金ではこの部屋は1泊210ドル取るそうだ。たいしたホテルではないのだが恐れ入った。

2月の半ばからそろそろ借家の物色を始める。カウンターパートの一人であるアンドレアの知り合いの不動産屋に家を10数軒ほど見せてもらったが、古い家ばっかりで疲れてきた。間取りも悪く家具類も古ぼけていて嫌になってきた。豪華な家を見せてくれと言うと2軒ほどでかい家、いわゆる豪邸に案内されたが、やはり古いのとデカすげてメンテナンスと安全対策に問題がある物件だった。さすがにもう弾がつきたか、または文句ばかりつける当方に嫌気がさしたか、いつの間にかこの不動産屋からまったく連絡が来なくなった。

日本に居るときに、協力事業団が去年の暮れまで当地で行っていた、水産資源プロジェクトのコーディネーターをしていたH さんからFAX をもらった。アルゼンチンの情報やマルデルプラタの情報が書かれており、そのなかで当地の不動産屋も紹介してくれた。早速不動産屋に電話して会いに行くと、親切な夫婦で何軒か見せてもらうことにした。

結構質のよい物件を持っているので期待できそうだ。元H さん夫婦が住んでいた家も見に行くが、近代的な作りで家具類も新しく気持ちが良さそうであった。ちょっと趣味がマフィアっぽかったが、リーダーのODさんはこの家に興味があるようだ。初めは一人住まいだからアパート形式がよいと言っていたが、ここのアパートは観光客用に作ってあり、短期に貸す小さくて安っぽい物件ばかりなのでさすがに嫌になったようだ。

私の希望はドミニカから家族が来るので、寝室が4っ付いて裏庭がある清潔な家を探しているが、今まで見たなかで気に入ったのは1軒しかなかった。それも無条件でよいと言うのではなく、なぜかシャワーしか無いので浴槽を作ってもらったり、カーペットをはがしてフローリングにするか、または交換してもらいたい等々・・。なんだかんだと条件がでてくる。

家族が来るまでまだ十分時間があるので、納得いく物件を見つけるまでもう数件は見てみたい。ここの借家は家具付きがほとんどだ。皿や鍋釜も置いていくと言うので、頼めば歯ブラシまで置いていきそうな勢いだ。それにしても結構家賃が高くて大体2千から3千ドルくらいする。

本プロジェクトに関するアルゼンチン政府との覚え書きでは、日本人専門家の所有する家財道具等の輸入は免税とする。と書かれているが、全く必要な手続きがなされておらず、現時点では滞在ビザがないので家財道具の中でも一番肝心な車を輸入できないことがわかった。

車探し1

家を借りて住むようになれば、交通手段としての車が無いのは致命的だ。また相手を責めれば解決する問題でもない。そこで輸入関税が掛けられて高くても一般車両として現地購入するしか無くなった。ここでは自国の産業を守るために車の輸入に関税を40%くらい掛けていると聞く。一昔前だったら大半の南米の国は平気で200から300%くらい掛けていた。外車である日本車は高く、消費税21%も加わって国内販売価格の1.5倍以上になってしまう。

この国ではかなり昔からフォードやGM、VW、ルノー、プジョー、フィアットなどが現地生産している。最近ではトヨタもハイラックスなんかの組立を行っている。しかし前にも書いたが、ペソはドルに連動しているので高く、どこのメーカーもメルコスルに加盟している自由貿易相手国であるブラジルで生産した割安な車を多く輸入するようになった。カーニバルの時期に前後して生産された車はヤバイのでは無いかと思うのは私だけでは無いはずだ。

町中ではルノーやプジョーそしてVW が一般的だ。ここではまだ日本車は高いので少ない。でもシボレーのコルサ、実はオペルが結構頑張っている。聞いたらアルゼンチン製だが、故障が少なくて良いと言うことだ。この国は道路事情が非常によいので、四輪駆動車はあまり必要なさそうだが、長期のバカシオーネスでアンデスやパタゴニア地方に釣りに行く連中が多いらしく、そのためか四駆もかなり見かける。

ガソリンの価格はレギュラーでリッターが1ドル程度なので日本とあまりかわらない。軽油が半分近い値段なので、かなりディーゼルエンジン乗用車をみかける。しかしガソリン車よりもエンジンの分高くなるので、通勤に使うくらいではいくら燃料が安くてもペイしないはずだ。そこまでわかって買っているヤツも少ないんじゃ無いかと思う。

ディーラーを何軒か見て回るうちに本物のドイツ製VW ゴルフが気に入った。ガソリン車で2リッターモデルが230万円程度と、なぜか日本で売られている値段よりかなり安い。もちろんブラジル製では無いことをしつこく確認したことは言うまでもない。一緒に派遣された他の仲間二人も依存が無い。

新型モデルは外観も内装も結構スポーティーな作りで、国内価格は高いのでなかなか日本では乗れないと彼らが言うのも納得する。しかし全員が全く同じ車に乗るというのも嫌なものだ。それに一応エンジンで何年も飯を食ってきた者として、この車のエンジンが気にくわない。今頃、SOHC で気筒あたり2バルブなんて冗談じゃない。だから割安なのかもしれん。また車を選ぶにしても海外生活が20年以上になる私にとって、心のどこかで日本車に乗ることは、イコール愛国心という変に強い思いがあることも否めない。

つづく

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